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【小波の京女日記】


2012年05月01日 放射性物質の基礎的な振る舞いを記述する(1) [長年日記]

_ まえがき

昨年の原発事故によって北日本各地に降下した放射性物質による汚染の問題は,原発がひとたび大事故を起こせば社会そのものが崩壊する可能性があるということを,強烈に印象付けることとなった。ちなみに,昨年3月中旬の気象状況は,ほとんどの期間強い季節風が海に向かって吹いていて,壊れた原発から噴出した大量の放射性物質のうちほとんどは海に降り注いだ。結果として人が住む地域に落ちた放射性物質はごく一部ですんだ,あれだけの惨状を招いてさえ,実はまだしも幸運だったのだということは決して忘れてはいけないことだと思う。

さて,そのことは一旦置いて,ここではよく言われる放射性物質の半減期とは何かとか。あるいはいわゆる半減期にも「物理学的」とか「生物学的」といった種類があることとか,あるいは体内への蓄積はどうなるかといった,多くの人の関心の高い問題について,簡単なシミュレーションとともに示すことにしよう。

_ なぜ放射線を放出する原子核があるのか

そもそも放射線とはどういうものだろうか?基本的な科学知識の範囲で,それについて説明しておこう。

だれでも知っているように,原子核は陽子と中性子が結合してできた 極微の粒子だ。陽子と中性子の間には核力という強い引力が働く一方で, 陽子と陽子は同じプラスの電荷をもっているので反発しあう。

つまり,中性子は原子核をまとめようとする接着剤であり,陽子は互いに嫌って離れようとしている。そういう相反した力を内在させている矛盾の塊が原子核と思えばよい。それでも私たちが知っているようなふつうの炭素や酸素の原子核では,まとまる力が優越しているので安定に存在している。

ところが,たまたま陽子と中性子の数のバランスが悪い原子核もある。炭素の場合だと陽子6個と中性子6個がなかよく収まっているのが通常の原子核で,中性子がもう1個多くなったものもちゃんと安定している。ところが,中性子が 8個もある炭素の原子核,炭素14が大気中で宇宙線のエネルギーをもらって少しづつ作られていて,こいつは少々不安定になっている。

ところで原子核というのは,単に陽子と中性子がじっとくっついているだけではない。 どんな原子核のなかでもそれらの粒子は固有のエネルギーを持っていて, グニュグニュゴニョゴニョとうごめいているのだ。安定な原子核の場合には それ以上のことは起きない。しかし,炭素14のような不安定な原子核の場合には,グニュグニュゴニョゴニョの結果としてある特別な状態になった瞬間に,何かの放射線を放出して壊れてしまう。核の壊変とか崩壊と呼ばれるのはこのような現象だ。

_ 放射性核が崩壊する確率は常に一定

つまり,放射性の原子核というのはエネルギー的に不安定な原子核がたまたま ある状態に陥った瞬間に壊れていく。たまたまそうなる確率は原子核によって決まっているので,炭素14の原子の集合だったら,無数にある原子核のどれも,現在から次の一定時間内に壊れる確率は等しい。 このことは放射性物質の振る舞いを理解する上で最も基本的な知識である。

_ 放射性原子核の減衰のようす

いま,ある放射性の原子核が量にして $x_0$ だけ存在しているとしよう。この量の単位はモルでもいいし,グラムやキログラムでもよい。あるいは数でもいいが,その場合には少なくとも1兆個ぐらいのスケールで考えてほしい。

不安定な原子核だから,一定時間後には,この原子核のかたまりのうちのある割合が崩壊していく。そこで単位時間あたりで崩壊する割合を $\lambda$ としよう。ある時刻 $t$ の時点で存在する原子核の量を $x$とすると,これが引き続く短い時間 $\Delta t$ の間に壊れて変化する量 $\Delta x$は次のようになるはずだ。 \[ \Delta x = -\lambda x \Delta t \]

あるいは,これを書きなおして次のようになる。

\[ \frac{\Delta x}{\Delta t} = -\lambda x \]

つまり,ある瞬間からほんの短い時間だけ進んだ時に $x$ が壊れて減る量は,その瞬間の $x$の値に $\lambda$ を掛けたものに等しいということだ。

図の矢印は,ある時点の量のヘリ方が,その量自身に比例することを矢印の傾きで表している。

画像の説明

数学的には $\Delta t$ という短い時間刻みを無限に小さくとっていって,次のような微分方程式を解くことになる。しかし,そんなむつかしいものは,ここでは扱わないのでご安心。

\[ \frac{dx}{dt} = -\lambda x \]

このことは別にむつかしい話ではない。たとえば人が所持金を使うときには,沢山持っている時ほど気前がよくて沢山の金を使う。荒っぽく言えば財布の金の額に比例して金を使うわけだ。この場合でも上記のような式で量の振る舞いが記述される。

ともあれ,上の微分方程式を解いてやると, 右の図のように右下に向かって降下していく曲線が得られる。これが放射性物質が時間とともに減っていく時の変化のようすを表す曲線で,量と時間の関係は次の式で表されることになる。

\[ x = x_0 e^{-\lambda t} \]

微分方程式を使わないで簡単なプログラムで計算する

微分方程式などというむつかしいものは使わないと宣言したわけだが, その代わりに使うのは差分方程式だ。こっちの考え方はいたって素直で,しかも短いプログラムを使ってあっという間に計算できる。それについては別の項目で扱うことにしよう。

(5月9日の記事に続きます)