スナップ

 教授は写真が苦手なのだ。若い学生たちはてらいもなくカメラに向かってい
る。おどけたポーズ、気障なポーズ、何気ないしぐさで互いにふざけながら、
向けられたレンズの奥の視線を楽しんでいる。同じ研究室で恋仲になってしま
った二人など、教授の目の前で寄り添ってレンズを見つめてくれる。ファイン
ダーの中の彼らは、まるでテレビドラマの主人公たちだ。
 それを目の当たりにして、教授はいよいよ逃げ出したいのだ。今日の撮影は
自分が言い出したものだから、逃げるわけにいかないことは分かっている。外
国の大学みたいに素顔の研究室を紹介したい、そう言い出したのは自分自身な
のだ。それなのにレンズの焦点が合う一瞬前に、彼の表情は凍り付く。口元は
笑おうとしてかえって歪み、目は困っている。これでは人に見せられる写真は
撮れそうもない。俺はカメラを降ろしかけた。学生たちがはしゃいだ。

「おっと、硬くなってますねえ」

お前ら若い連中みたいに人前であられもない格好などできるか ----   そう教
授は気色ばみそうになった。が、若者たちの気遣いを感じたようすで、苦笑い
しながら振り返った。あの苦みがやわらぐ瞬間にいい表情が現れる、俺はそう
予感してもういちど構えなおした。しかし、シャッターが切れた時には、既に
その顔はカメラを感じてこわばっていた。

 パンフレットには、生き生きとした若者たちの群像に取り囲まれて、教授の
顔写真が納まっている。しゃっちょこばった表情がネクタイを外したラフな服
装と奇妙な対照を描いているスナップは、それはそれでなかなかなのだった。




1996.6