1日の気温の変化と太陽放射


快晴の日の最高気温は午後2時すぎに出ることが多いようです。その理由がなぜなのか, 1日の気温の変化をきめる要因は何なのか,それをデータとシミュレーションで 探ってみました。なお,この記事の著者は気象の専門家ではありませんので, 参考程度,あるいは考える材料にということでお読みください。疑問や間違いの指摘は 歓迎します。

2006/05/05, 小波秀雄


単純なモデルで考える

モデルの概要

地表を暖めるエネルギーは,いうまでもなく大陽から放射される光がもたらします。 また地表の熱は,究極には熱放射によって宇宙へ放出されます。大陽からの 放射によるエネルギーの流入は,晴れた日ならほとんどそのまま地表面を暖める ことになりますが,逃げ出す熱の方は,実際にはいろいろと複雑な経路を 通って,最後に宇宙に逃げるはずです。しかし,ここではまず,状況を単純化して考えることにしましょう。

上の状況は,真空中に置かれた物体が太陽から輻射熱を12時間受け取り,一方で 真っ暗な宇宙に向かって自分の温度で決まる熱放射を行っていることを 意味しています。つまりかなり重要であるはずの大気の影響をまったく 考えない近似です。

シミュレーションの結果

下図は,上のモデルを元にしてシミュレーションを行った結果を示しています。 時間は日の出時刻の6時から48時間にわたってとり,緑の曲線が太陽光 エネルギーの強さ,赤の曲線が温度を示します。 なお,温度は約0℃から25℃の間で変化しているので妥当な感じがするかもしれま せんが,計算に用いるパラメータの取り方によって,この値はいくらでも変わり ますので,値そのものの意味はあまりありません。 基本的に縦軸の単位は無視してください。

このシミュレーションの結果で注目されるのは,温度のピークが どこに出現するかという点です。グラフからそれを読み取ると, 5時のちょっと前ぐらいになることが分かります。 しかし,一日の最高気温は午後2時ごろに現れるということを聞いた人は 多いはずです。ところが上のモデルでは,それよりもかなり後にずれているのです。 これはどうしてでしょうか。

ここで最高温度のほうを考える代わりに,最低温度の出現時刻を見てみましょう。 最低温度は日の出の約1時間後に現れることがグラフから読み取れます。 さて,これと最高温度の出現時刻とを見比べると事情が判明します。

日の出直後,温度がまだ下がり続けるのは,太陽光からの流入エネルギーが, その温度での地表からの放射エネルギー量をまだ下回っているからです。 その関係が逆転するのが日の出後1時間ほどのところです。 その後,

地表に与えられる太陽エネルギー > 地表からの放射エネルギー
という関係が続く間は温度の上昇が続くわけですから, それは日没のおよそ1時間前ということになるのです。もっとも温度が 高いと放射エネルギー量は大きくなるので,やや早めに 減少に転ずるはずですが,その効果はこのシミュレーションの粗さでは無視しても よさそうです。

このようにして,太陽から地球へ,地球から宇宙へ,という2つの放射のエネルギー収支 だけから,最高温度が太陽の南中時刻よりも後に現れることは理解できました。 しかし,このモデルはいかにも乱暴です。それでは次に,実際に起きていることが どういうことなのかを 気象観測データを見ながら考えてみることにしましょう。

実測データに基づいて考察する

気温変化を太陽光と空気の動きから考える

気温変化をもたらす要因として考えられるのは何でしょうか。これは一概には いえません。雲がかかっても,雨が降っても,気温は下がるものですし, 風の影響も大きいでしょう。そこでここでは問題を複雑にしないために, 快晴の日の気温変化を選んで考えることにします。

日中ずっと快晴という日には太陽光がずっと地表に届きます。したがって 太陽光の時間変化は,上のシミュレーションとほぼ同じような振る舞い を示すでしょう。それ以外で温度に影響するのは空気の対流による 熱の持ち去りでしょうから,風を調べれば何か分かるかもしれませ ん。

ただし,風の原因には気圧の傾斜による水平方向の 空気の動きもあり,それは今考えている問題からは外しておきたい要因です。 幸い,一日よく晴れた快晴の日というのは,高気圧の中心付近で起きるものですから, 夜のうちはほとんど無風状態で,日が上がるにつれて弱い風が吹き始める ような風の動きになります。これは対流によるものでしょうから,うまくそのような 日を選べばよいでしょう。

以上の考察をもとにして,ちょうど適していそうな日を探してみると, 2006年4月7日 と 2005年5月3日 のデータが見つかりました。このデータは 京都市東山区の京都女子大学の建物の屋上に設置されている観測装置 によるもので,太陽光と気象データを同時に取得していますので,今回の目的には 便利です。なお,このデータは下のサイトで公開されています。

http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/~konami/climate/

実測データと考察

選ばれた2つの日付のデータをグラフにしてみたのが下図です。 ここで赤は温度(℃),青は全太陽光エネルギー(kW,ただし10倍されている),そして 緑は風速(m/s)です。

いずれのグラフでも,日の出前はほとんど無風に近い状態(2,3 m/s 以内)です。 そして日の出から2時間程度は気温がきれいに上昇していき, 風はその間ほとんど吹いていません。ところが10時前後から 5 m/s 程度の風が 吹き始めて,それと並行して気温の上昇にブレーキがかかります。 この傾向は5月のデータの方でより顕著に見られます。 そして,正午から午後にかけて気温が高い状態では,ずっと風が 吹き続けています。この風は熱エネルギーを上空に持ち去っているわけで, シミュレーションのグラフに見られた,「太陽光からのエネルギーによって 気温が上昇し続ける」という傾向がかなり緩和されていることが,実測データの グラフを見るとよく分かります。 細かい検討をしてはいませんが,風が突発的に吹いては,気温が少し下降するという ことが起きているようにも見えます。その相関を調べるのは面白そうです。

ただし,実測データに見られる最高気温の出現時刻は,いずれも午後3時過ぎであり, 通常言われている午後2時前後よりはかなり後になっています。普通 言われているのは,快晴のとき(これは稀)以外の日も含めての平均的な傾向ですか ら,ひょっとしたらここで取り上げているような理想的な状況では, 午後3時以降に最高温度が現れるという推測も可能です。これについても,もっと詳しく 調べると何か分かるかも知れません。

最後に,夕方から夜にかけての温度の低下について見てみま しょう。この低下のようすは, シミュレーションで示される同じ時間帯の低下にくらべるとずっと緩慢です。 これは,地表(ここでは建物の屋上面)の温度は低下している のだが,暖められた空気のほうは急には冷えないのだということがひとつの説明として 考えられます。さらにグラフの両端を見ると,左端の 午前0時に比べて,その次の午前0時の気温がかなり上昇していることが わかります。 大陸から高気圧が移動してきて日本付近を覆い,そして 去っていくという過程で,晴れた最初の日がもっとも 気温が低く,そのあとだんだん暖まっていくという一連の経過は,私たちにとって おなじみのものですが, 今回取り上げた2つのデータは,いずれも その流れの始まりの場面を眺めていることになるわけです。

まとめ

一日の気温の変化と日照による太陽エネルギー供給の関係について, 簡単なシミュレーションと実測データを基に考察してみました。 その結果,最高気温が現れる時刻がどのように決まるのかについて の知見が得られ,また快晴の日の気温変化に対して,対流の発生が 大きな影響を与えていることが示唆されました。また,いくつかの 問題が新たに提起されています。

今回の考察では,単純化されたモデルと比較するために, 特異な晴れの日を選んであります。ここで取り上げた以外の要因が関連する ケースについても引き続き検討が必要です。