京都ですしぃ

京都弁といえば,ふつうの人が思いつくのは,

おいでやす,そうどす
というあたりですね,まず間違いなく。もっとていねいに, 「そうどすえ」なんてのもあるかな。

でもこんなことばは日常会話には出てきいへんのです。 わたしも京都に来てかれこれ3年半,日ごろ「おいでやす」を 聞くのは大学の前にあるやぐ羅蕎麦ぐらい。老舗なもので, 店のしきたりとして使われているらしい。 同僚に連れられて一度だけ入った祇園のスナックでは, 「おいでやす!」,「かんにんどすえ」の連発でしたが, 要するに商売用の業界用語ですね。それから,礼節をたっとぶ京ことばの 典型として名高い

ほな,ぶぶづけでもいかがどす?
などというのは,耳にしたいと思ってもちょっとむり。あたりまえですかね。 一度は言われてみたいせりふなんですが。

じゃあ,京ことばとして今使われている固有のことばはというと, なにがあるんでしょう。実は, これが「しぃ」なんです。使っている本人たちにはまったく 意識されていないようなので,正真正銘の地元方言なんでしょう。 真の方言というのは,むしろ当人が方言と思ってないものであって, それこそが意識の深層に 定着しているものでありますから。

用例をあげましょうか。

いまそっち行くしぃ。 (電車の中で携帯に向かって)
その本やったらここにありますしぃ。
その仕事はやっときましたしぃ。
これは次の文の語尾と似ているように思えます。
あしたは雨が降るかもしれへんしぃ…
でもこれだったらぜんぜん違和感はありませんわね。 「しれへんんしぃ…」の後に思いが残って,「そしたらどないしよ」という 未定の未来に対することばなどが続きます。よしんば続かなくても, 決断されないモラトリアムな心象が残るわけです。 これは標準語で行われている「し」という接続助詞の使われ方です。

ところが,京都特有の「しぃ」は,言い切り,断定の あとに付いてくるのです。なんとも強烈な語尾ではありませんか。 最初聞いたときには,わたしはショックでした。それもがーんとくる やつではなくて,一瞬おいて重心を失ってよろめきそうなショック。 「しぃ…」の後には何が来そうなのに話者は話し終えたという 顔をしているわけですから,困りました。

もともと 標準語から方言まで,およそ日本のことばは語尾につける接尾辞を もっています。「ね」とか「さ」とかいうやつ。それが京都では 「しぃ」なんだというだけのことですが,ちょっとこいつは勝手が 悪い。どっか宙ぶらりんで話しが終わってしまうような終わり きれないようなあいまいな雰囲気がただよってしまいます。 実はこれが京都らしさというものなのかも知れませんねえ。


京ことばということで語尾の「しぃ」をご紹介しましたが, 関西で日の浅いわたしが分布を見まちがえているかも しれません。お気づきの節はお知らせいただけると幸いです。