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【小波の京女日記】


2015年03月20日 卒業生へのはなむけの言葉 [長年日記]

_ 卒業生へのはなむけの言葉

4回生のみなさん,

ご卒業おめでとうございます.

2回生のゼミのときから,あるいは3回生から,きみたちと一緒にやってきたことが一瞬のことのようでもあり,またとても長かったようにも思われます.

みなさんは,卒論の作成に掛かってから,改めて何か一つのものをつくり上げることの難しさ,大変さに気がつき,前に学んだことを何度も振り返ったり,力不足に泣いたりしたのではないでしょうか.

それでもなんとか卒論を仕上げられたのは,1回生の時からの勉強の積み上げと,先輩たちの残してくれたたくさんのお土産があったおかげです. たまたま出会った人や,本や,人の言葉によって坂道を越えられたこともあったはずですね.それらに自分の苦労が合わさって得たものは,これからの人生の宝物です.

今日は自分の歩いてきた道を振り返り,これから自分たちの後にくる人たちに自分の宝物を贈っていくことを心に刻んでほしいと願っています.

さて,これからの社会は,とてもむつかしい問題を抱えていて,しかもどんなふうに変わっていくのか,現時点では想像もつきません.私にしても,半世紀以上にわたってこの社会を見てきて,思いもよらないことが起き,想像もつかなかった問題を抱えて,今日の社会のすがたに至ったことに,深い思いを致すことがしばしばです.そんな世の中を,君たちは目の前にしていて,不安を抱くこともあるのではないしょうか.

が,私の幼かった頃,若かった頃にも,この世界の人々は将来に不安を抱くことがありました.冷戦の最中には,いつ核戦争が起きてもおかしくはないという事態もあったりしたし,日本にも世界にもまだまだ克服できない伝染病や災害があって,みんなを脅かしていました.不景気も好景気もありました.

その後,核戦争で世界が滅亡するような危険は,今は遠ざかっています.これはよいことです. 日本脳炎,ポリオ,赤痢,破傷風などで死んだり後遺症に苦しむ人も多かったし,公害による大気や水や土壌の汚染でも,人がなくなったりしていたのです.台風にしても正確な予想で災害を食い止められるようになったのは,ここ30年ほどのことなんです.

社会的には,人種差別や部落差別などの差別問題も昔はずっとひどかったのですが,今は完全とはいえないまでもずいぶんとまともになってきました.1954年,同性愛の罪で不幸な死をとげたアラン・チューリングが,偏見を克服しつつある現代をみることができたら,夢のような気がするにちがいありません.

つまりね,いろいろと見ると,世界は確実に前進しているのです.悲観的になるのは今の瞬間だけに囚われて,過去の教訓も未来の展望にも目をつぶってしまうからです.

そして,その進歩をもたらしたのは,人文科学や自然科学を含む広範な分野の科学が成果を積み上げ,一方で立場の異なる人々の相互理解が進んできたからです.

思い込みや偏見に引きずられることなく実証的,科学的にものごとを考えること,争いや反目ではなく,相手の心や文化や生き方を理解すること,つまり智慧と信頼をもって,困難を解決しようとすることが,世界の進歩をもたらしてきたのです.逆の道を行けば,当然世界は暗くなるでしょうし,現在でもあちこちで見通しの暗い状況が起きています.解決に長い時間が掛かるものもあるでしょう.が,それらもやがて克服されていくことでしょう.

これからの皆さんにお願いしたいことをいくつかまとめておきましょう.「焦ることなくじっくりと考え,確信を心にためて行動すること」,「争いと憎しみの熱狂からは距離をとって,すべてにおいて和解と寛容を最上の解決として目指すこと」これはね,それこそ自分の家庭や職場から 世界の人との付き合いまで大切な心がけです.そのために「人は裏切るし,情けないこともあるものだけど,しかしその本性には信頼を置く」ようにしましょう,そしてなにより,「短慮に走らずに,理性的であること」と「自分の力を信じること」です.

さて,ちょっと大きな話になってしまいました.とはいえ,大きな話も小さな話も対処すべき心のあり方は同じなのです. もちろん,自分らしく生きるためには働くことが必要ですし,働くためには勉強を続けないといけません.これからも生きていく力を伸ばしていくために,前を向いて勉強をつづけてください.私もできるかぎりは皆さんを応援していきたいと思っています.

今日は,卒業おめでとう.