「マイナスイオン」どこがニセ科学か


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ニセ科学の中のマイナスイオン


「水からの伝言」とマイナスイオンのちがい

水からの伝言

マイナスイオン


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ブームの到来とその後

マイナスイオンブームは2000年頃に大きく広がって,大手家電メーカーも それに便乗した。  → 日立のマイナスイオンパソコンのリリースニュース(2002年)
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大手家電メーカーはどこに行ったか

2000年から2002年ごろにかけて,大手の家電メーカーはマイナスイオン発生を うたったエアコン,空気清浄機などの商品を次々に登場させた(日立はマイナスイオン発生パソコンまで出した)。その後 批判を浴びる形で 撤退していった。現在,彼らはマイナスイオン発生で使った技術を転用して 空気清浄や集塵,除菌に利用している。

エアコン/空気清浄機に現在使われている関連の機構
ナショナル メガアクティブイオン コロナ放電で大気イオンを発生 させて埃などを吸着さ せてから,集塵機で回収
コロナ 除菌・プラズマ空気清浄ユニット ナショナルとほぼ同じ
サンヨー 除菌電解ミスト 次亜塩素酸イオンを含む微小水滴を発生
三菱電気 プラチナプラズマ脱臭 大気イオン発生メカニズムを利用
ダイキン マイナスイオン発生装置 スイッチで OFF にできる

これらは帯電微粒子を閉じた形で利用しており,人が吸収することはないようだ。 しかし,マイナスイオン製品を出したことに対する 反省は なされたのだろうか?
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マイナスイオン復活の様相

ネットに氾濫するマイナスイオン情報

国内のウェブサイトはマイナスイオン商品とそれに関連する ニセ科学の宣伝の場となっている。

2006年8月末現在,「マイナスイオン」で Google 検索して ヒットする数は 3,850,000 件。その大半はマイナスイオン商品の宣伝と 効能の非科学的解説。

なお,2年前の検索結果のデータが安井至氏の「市民のための環境学ガイド」に 掲載されているが,Google の仕様変更もあるので,比較は困難(そのまま比較すると10倍に増えていることになる)。


ターゲットは若者と女性

現在のマイナスイオン商品は,装身具,化粧用電気製品(ドライヤーなど),化粧品,身の回りの小物(携帯ストラップなど) など,若者,女性が購買層となっている。


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権威の下に集合するマイナスイオン業界

2004年に発行された『空気マイナスイオンの科学と応用』。 マイナスイオン関連商品をさらに売るための,権威付けと 業界の結集が図られている。

大学関係者(小川俊夫,笠原三紀夫,丸山敏朗各氏など)が, 「あぶなくない」総論。 ― マイナスイオンについて 大気イオンの一般論や直接関連のないはずの 項目を書きならべている。

一方,応用の部分は研究論文の名に値しない雑な報告の寄せ集め。  −  まともな審査論文や医学雑誌を参考論文に挙げているも のはほとんどなく, 二重盲検法による客観評価もほぼ皆無。

病膏肓に入る

大メーカーはマイナスイオンから足を洗った。しかし, マイナスイオンには効能はないという批判は, 一般大衆レベルには届いていない。むしろ糸が切れた凧のように, 迷信化したマイナスイオン製品が溢れるようになってしまっているようにさえ見える。 そして溢れかえる「イオン飲料」。
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マイナスイオンとは何か

辞書を引いてみると

アカデミックな出版物では,マイナスイオンは正統なものとして扱われていない。
一般的に,大気中に存在する負の電荷を帯びた分子の集合体のことであるとされている。 積乱雲の中などで,激しい気流によって水滴が分裂する際に,半径の小さい水滴が負の電荷を帯びることが多い(レナード効果)(中略)。
化学工業では高電圧を掛けて微細な粉塵類に負の電荷を帯びさせて回収する 装置があるが,家庭電気製品などで「マイナスイオン」を発生させるというの は,雲の中よりもどちらかというとこれに近い。人体によい影響を与えるとも いわれているが,その詳細は明らかになっていない。花粉そのほかのハウスダ ストだと,かえって人間には悪影響を及ぼす可能性すらある。(『科学大辞典 第2版』国際科学振興財団編,丸善,2005 --- 理化学辞典(岩波),化学辞典(東 京化学同人)には記述無し)

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そもそも化学におけるイオンとは

原子や分子が過剰な電子を持つか,逆に電子を失って電荷を帯びたもの。 → 陽イオン(カチオン),陰イオン(アニオン)
高校の化学(新課程以前では中学理科)で学んだのは,このイオン。

通常は溶液や結晶中に存在していて 安定した電子構造をもった非ラジカル


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いわゆるマイナスイオン,プラスイオンとは

マイナスイオン, プラスイオンというのは, 帯電して浮遊しているさまざまな微粒子を総称して いるらしい。しかし,実体が不明のものもある。 「大気イオン」,「空気マイナスイオン」などの 呼称もある。

サイズは原子 数にして数十 から数百程度。静電気を帯びた空中のコロイド粒子というイメージ。帯電の原因には 摩擦や放電などがある。

それ以外にまったく正体の分からないものもよくある。


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コロナ放電法によるマイナスイオンの発生

発生するのは次のようなイオン

O2-, OH-, NO-, CH3-, NO3-, HSO4-
他に O3, OH などの非常に活性の高い非イオンも

これに空気中の水分子が結合して,帯電したイオンの塊を作ると考えられている。
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レナード法によるマイナスイオンの発生

水が破砕されて微小水滴になるときに電荷が分離して, 小さい水滴は負に帯電する。マイナスイオンの歴史の始まり(レナード)。 噴霧器タイプのものは,この方式を利用しやすい。

放射性鉱石によるイオン発生

放射線による空気のイオン化を利用する。トリウム(主要な核種は 232Th, 半減期140 億年)の鉱石が主。 ブレスレットなどの装身具。

その他不思議な方法

トルマリンなどからマイナスイオンが出ているという 話 → 根拠不明。

「マイナスイオン」と関係ない商品も多い

「マイナスイオン」は大気中のイオンとしてしか定義しようがない。溶液状態のイオ ンは ふつうの電解質イオンに過ぎない。化粧品などに 含ませることはナンセンス。
浄水器もマイナスイオンを生成するこ とを売りにしているものが。


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「マイナスイオン水」は化学的にナンセンス

水中に大気イオンを投入したら
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マイナスイオンの「効用」

なぜ効能があるとされているのか

次のような短絡的な論理があるらしい。


滝のしぶきは心身をリフレッシュさせる
水しぶきのマイナスイオンは体によい = 単なる推測→*
あらゆるマイナスイオンは体によい = 無謀な一般化

(*)20年ほど前まで,オゾンは体によいという俗説が一般に浸透していた。

善悪二分法

癒し効果 → 鎮静作用 → 血圧降下,心拍数減少,その他なんでもよいことすべ て

「マイナスイオンはいい,プラスイオンは悪い」という二分法は 信奉者には分かりやすい。極端な二分法を「業界」は主張している。


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マイナスは善い,プラスは悪い

項目 マイナスイオン プラスイオン
一般概念沈静的作用 刺激的作用
催眠作用不眠作用
鎮痛作用 頭重・頭痛作用
食欲亢進作用 不快作用
血圧 降下 亢進
脈拍 減少 増加
呼吸 沈静 促進
毛細血管 拡張 収縮
血糖 減少 増加
疲労による血液乳酸量 正常化加速 正常化遅延
人工的貧血 回復作用あり 回復作用著しくあり
血清表面張力 上昇 低下
血液酸素 正常および減少 増加
酸素消費量 減少 増加
利尿作用 促進 抑制
尿窒素 増加 減少
便通 秘結性に傾く
疲労 疲労防止疲労促進
好影響 不良影響
実験的壊血病 発生阻止 発生促進
回復促進 回復遅延
『マイナスイオンの知恵袋―質問と回答集』の【人体への作用】から

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科学研究の名に値しない「実験データ」

江川芳信氏(イオン情報センター所長,日本機能性イオン協会理事)の論文「マイナスイオン製品の測定・評価事例」(『空気マイナスイオンの科学と応用』p.67-94)


試料 検査項目 効果
A 脳波(α波) 効果あり
B 脳波(α,θ波)出現率 α波 +21.6%, θ波 +3.3%
C 血流量,血流速度 +10%, +8%
D 血流量,血流速度 +5%,+10%
E 皮膚温(サーモグラフィー) +1.1 ℃ (平均)
F 皮膚温(サーモグラフィー) +0.4 ℃ (平均)

※いずれにおいても,二重盲検法はおろかダミー試料を使った対照検査さえも行っていない。試験に使われた商品の名称もなし。
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効果は本当にあるのか?

ラジカルは体によいのか?

O2-, OH-, NO-, CH3-, NO3-, HSO4-

大気イオンの大半は活性酸素などのラジカルであり,

生体には危険!

光化学スモッグの原因物質でもある。

消臭や殺菌効果はありうる


なぜ危険性が暴露されないのか?

生成するイオンの量は,化学的には無に等しい。


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どれくらいの物質量の「イオン」が生成しているのか

シアン化カリウム(青酸カリ)の経口致死量 = 200 mg

これをコップ一杯(200 mL)の 水溶液に溶かすと:

濃度は 0.015 mol/L,個数レベルでは 1019 個/cm3

マイナスイオン発生機器によるイオン

濃度は 10-16mol/L, 個数レベルで 103〜105 個/cm3,

琵琶湖に耳かき一杯の塩を入れても,これよりはるかに濃い。

吸入などで摂取したとしても,生理活性を期待するのは無理がある。 もっとも,生理活性が人体に有益であるかどうかはきわめて疑問。
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ヘアドライヤーには有効か

静電気を中和することはできる程度の電気量

髪を乾かすときの「暴れ」を防ぐには役に立つ可能性は否定できない。 ただし最も有効なのは過度の乾燥を防ぐための加湿機能。


極微量のラジカルを吸入している可能性大(量的には大丈夫だが)。
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マイナスイオンを産み出す社会


合理的な判断からの逃走?


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専門家は断定できない人種

専門家が使う表現と一般の日常用語の感覚にはずれがある。 特に何かを否定するときには,専門家は慎重な言い回しをせざるをえない。

専門家が使わ(え)ない表現

「〜は絶対にありえない」


しかし多くの人は, 確率がゼロでないと言われれば 「実際に起きるかもしれない」と考える。

専門家は迷う人種

専門家はトリビアルな(平凡でつまらない)ことよりも新奇な事実を好む。 常識に反する事実に出会ったときに,その可能性をいちおう考えてみようとする。 その場面に素人が付き合うと「あぶない」かも。


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すれ違うことば

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専門家はどう振舞うべきか


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一般市民はどう振舞ったらいいか




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面白かったサイト